最終更新日:2026-03-12
基礎控除「178万円の壁」は今後どうなる? 物価に合わせて見直す新ルールが誕生
- 2026/03/13
- 2026/03/12
物価の上昇が続くなか、税金の仕組みも変わり始めている。令和8年度税制改正では、所得税の「基礎控除」を物価に合わせて見直す新しい仕組みが盛り込まれた。政府は今後、2年ごとに消費者物価指数を基準として控除額を見直す方針だ。これまで税制は物価に連動していなかったため、実質的に税負担が増える「ステルス増税」が問題視されてきた。今回の改正は、その問題を是正する第一歩となる。ただし、この仕組みは「本則」ではなく「附則」として規定されており、今後の制度運用にも注目が集まる。
この数年、日本では食料品やエネルギー価格の上昇など、生活に直結する物価の値上がりが続いている。給料が上がっても、同じ割合で税金が増えてしまうと、実際の生活は楽にならない。この問題を象徴するのが、いわゆる「課税最低限」だ。課税最低限とは、給与収入がいくらまでなら所得税がかからないかというラインのこと。
政府は令和8年度税制改正で、この課税最低限を「178万円」まで引き上げる方針を示した。これは、物価上昇によって実質的な税負担が重くなっていた状況を是正するための措置だ。
しかし、税制改正の議論ではもう一つの問題も指摘されていた。それは、税制が物価の変化に自動的に対応する仕組みがなかったことだ。
基礎控除を物価に合わせて見直す仕組み
今回の税制改正では、この問題に対応するため、所得税の「基礎控除」などを物価に応じて見直す仕組みが導入された。
税制改正法案の「附則101条」では、次のようなルールが定められている。
・令和10年分以後の所得税の基礎控除
・給与所得控除の最低保障額
これらについて、政府は2年ごとに見直しを行うとした。
見直しの際の基準となるのは、総務省が公表している全国消費者物価指数(CPI)。具体的には、前回の見直しから2年間の物価上昇率を基準として、基礎控除の額などを引き上げるかどうかを判断する。
これにより、物価が上がった場合には控除額も引き上げられる可能性があり、税負担が実質的に重くなるのを防ぐ狙いがある。
ただし「附則」で規定された制度
ただし、この仕組みには注意点がある。今回の制度は、所得税法の「本則」ではなく、「附則」(附則101条)として規定されていること。附則とは、法律の本体ではなく、将来の運用や経過措置を定める部分。そのため、制度としては導入されるものの、実際にどの程度見直しが行われるかは、今後の政策判断に左右される可能性が高い。
税制として完全に固定された仕組みとは言えない点は、理解しておく必要がある。
「178万円の壁」は維持されるのか
今回の改正では、もう一つ重要なポイントがある。それは、課税最低限である「178万円」のラインが今後どうなるのかという問題。令和8年度税制改正では、この178万円という水準は、主に次の2つの措置によって実現される予定。
・基礎控除の特例
・給与所得控除の特例
しかし、これらの特例措置の多くは、令和8年分と9年分に限定された措置となっている。
つまり、何も対策を取らなければ、令和10年以降は控除額が元に戻り、課税最低限が下がってしまう可能性があるのだ。
この問題について、与党の税制改正大綱では次のような考え方が示されている。今後、物価上昇に応じて
・基礎控除(本則部分)
・給与所得控除の最低保障額
を引き上げていく一方で、現在の特例措置の部分を段階的に本則に移していくという方針なのだ。
つまり、物価の上昇に合わせて本則の控除額を引き上げながら、特例部分を徐々に縮小していくことで、課税最低限178万円を維持していくという、なんとも複雑な仕組みだ。
税制が「物価に追いつく」時代へ
これまで日本の税制では、控除額の見直しは政治判断によって行われることが多く、物価の変化に自動的に対応する仕組みはなかった。そのため、物価が上がっても控除額が据え置かれ、結果として税負担が重くなるという問題が少なからず指摘されてきた。
今回導入される「物価連動型の見直し」は、この問題を改善するための重要な第一歩となるか可能性がある。
もっとも、実際にどの程度の頻度や規模で見直しが行われるのかは、今後の政策判断に委ねられる部分も少なくない。
今後は、2年ごとの見直しがどのように運用されるのか、そして課税最低限178万円がどのように維持されていくのかが、税制の大きな焦点となりそうだ。
クローズアップインタビュー
会計業界をはじめ関連する企業や団体などのキーマンを取材し、インタビュー形式で紹介します。
税界よもやま話
元税理士業界の専門紙および税金専門紙の編集長を経て、TAXジャーナリスト・業界ウォッチャーとして活躍する業界の事情通が綴るコラムです。



